よみもの

  • 2016.06.09

材木屋の常識?材木を担ぎ続けて肩に毛が生えてこそ一人前

ringyo_e 「材木屋はな、肩から毛が生えたら一人前なんじゃ」 それはぼくがまだ学生の頃、調査研究およびフィールドワークと称し、製材業者や材木屋さんを回っては話を伺っていたときのことです。お昼休憩中、甘ったるそうな缶コーヒーを片手にタバコをふかしながらオッチャンは続けます。 「そりゃ昔はな、材木屋で働いとるモンはみーんな肩から毛が生えとった。今じゃアホみたいな話じゃけど、毛が生えんうちは一人前とは言ってもらえんかった」   オッチャンは中学を卒業してから材木屋一筋、その道50年のベテラン。今から40〜50年前、まだオッチャンが材木屋の新人クンだった頃、先輩の肩からは毛が生えていたと言うのです。1970年代、材木屋が高額納税者ランキングに名を連ねていたような時代でした。 毎日毎日、重い材木を肩に担いでいると、いつしか毛が生えるようになるのだそう。今でこそ当たり前のようにフォークリフトを使って木材を運ぶものの、当時は肩に担いで運ぶのが常でした。こりゃあ肩に毛でも生やさんといかんわ!と脳から発毛司令が出るようになるのでしょうか。人類は偉大だ。   「それにな、右と左の肩でな、大きさがこーーんなに違うんじゃ」 オッチャンの「こーーんなに」は、さっきまでオッチャンが製材機で挽いていた丸太の直径くらいの大きさもあります。「そんなに違ったら仕事にならないじゃないスか」「ホントじゃ、ワシもすごかったんで」と本気なのか冗談なのかはまるで分かりません。けれど、小柄な体格にはずっしりと筋肉がのっていて、わずかに右肩の方が大きいように見えんこともない。   オッチャンは変わったタバコの吸い方をします。右手の薬指と小指にタバコを器用に挟み込んで吸うのです。肩に毛が生えるのは一人前の証だけれど、指を飛ばしてしまうのは半人前の烙印なのだそう。オッチャンがまだ半人前の頃、人差し指と中指はどこかへ飛んでいってしまいました。さすがに毛と違って指は生えてこんもんじゃな、とオッチャンはニカッと笑う。   「肩じゃのうて頭で材木を担いどったら、こんな頭にはならんかったんじゃけどな」 ガハハと笑いながらペンペンと叩いたオッチャンの頭は、高く登ったお日様を映していました。カンナで仕上げたみたいにきれいな頭ですね、と材木屋的ツッコミを入れる勇気は、当時のぼくにはまるでなかったのでした。

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三重大学を卒業後、国産材専門の木材商社を経て、西粟倉村へ移住。新たな木材流通をつくるためプロユースの営業を担当。山を走り回ったり、狩猟をしたり、DIYに勤しんでいます。

個人ブログも書いてます → http://hadatomohiro.com/